中華ログペリアンテナを120%活かした社内EMC試験の方法 – アンテナファクタ付で販売も


はじめに

こんにちは。電気エンジニアの早川です。

以前の記事にて、安価なログペリオディックアンテナ(以下、ログペリ)を使ったノイズの確認方法や、アクティブアンテナを使った1m法での簡易測定の方法を紹介しました。

その中から、1m法でのEMI測定方法に着目し、これをさらに費用をかけずに行うことができないかを模索してみました。

中華ログペリアンテナでの測定について

以前の記事において1m法での試験では、アクティブアンテナを勧める内容となっていました。しかし、アクティブアンテナが会社にあったり気軽にレンタルできる環境であればよいのですが、新たに購入するには高価でなかなか手が出にくいものです。

そこで、安価な中華ログペリアンテナの活用を考えてみました。

どうしよう、アンテナファクタがわからない

測定用のアンテナを購入した場合、受信電力を電界強度に読み替えるための数値であるアンテナファクタの表が付属しているのが一般的です。しかし今回使用するような簡易的なアンテナの場合、これが付いてきません。

採寸して理論値を求めるアプローチも考えられますが、やはり実測値がほしいところです。

中華ログペリアンテナを校正に出す

アンテナファクタを知るための一つの方法は、アンテナを校正に出すことです。

校正というと機器の“調整”のニュアンスを含んでいることが多く、誤解されがちですが、校正対象が示す値と標準によって実現される値との関係を調べることが本来の校正の意味です。ですから、 なんの調整箇所もないアンテナも校正機関に出せば校正を行ってくれ、校正成績書としてアンテナファクタの表を発行してくれます。

校正を終え、立派なシールが付きました!

いざ、中華ログペリアンテナで測定

アンテナファクタがわかったので、スペクトラムアナライザ(以下、スペアナ)で受信電力を測定すれば電界強度を知ることができるようになりました。あとは実際に測定するのみです。

以前の記事にも登場したアヒル型ドライブレコーダーをEUT(測定対象)としてみます。

測定はこういったなるべく広い部屋で行います。壁からの反射波が結果に大きく影響してしまうので、なるべく壁が遠いほうが良いわけです。

同様に床や天井の影響を最小限にするため、アンテナとEUTの高さは床と天井の中点くらいにセットします。天井が十分高い場合には、可能ならアンテナとEUTの高さをアンテナの校正を行った高さと同じにします。これはアンテナファクタがアンテナを設置する高さに依存するためです。

EUTから発せられるノイズは指向性があることが普通で、放射が最大になる方向をアンテナに向ける必要があります。今回はこのような模型展示用のターンテーブルを使用しました。EUTを常時回転させながらスペアナをMAX holdモードで測定すれば、自動的に最大値が記録されます。

スペアナはアンテナの後ろ側に設置し、操作もここで行います。ケーブルを長めに引き回すので、ケーブルロスの測定も忘れずに行います。

その他測定ノウハウがいろいろとありますが、とても長くなるので後日記事にしたいと思います。

測定結果

水平偏波
垂直偏波

水平偏波、垂直偏波は、それぞれこのような測定結果になりました。ノイズレベルのジャッジは適用する規格によってVCCI, CE, FCCなど異なります。今回はグラフ上のClass A limit, Class B limitの線を超えていなければOKと判断します。

クラスAとBの違いは、大まかにはクラスAが産業機器、クラスBがコンシューマ用となっています。水平偏波ではクラスA,Bどちらに対しても限度値オーバーで、EMI試験をパスするのは難しいそうな結果になりました。

環境ノイズ

電波暗室での測定ではないので、さまざまな環境ノイズも入ってきます。これとEUTからの放射を区別するため、環境ノイズの測定も必ず行います(グラフ上の青のプロット)。観測されている環境ノイズは大雑把に説明すると次のようなものです。

地上波デジタル放送や、携帯電話の基地局が特に目立ちます。

測定中スマホは機内モードにしておくべきところ、今回迂闊にもそれを忘れてとんでもなく大きいピークが立ってしまいました。800MHz帯に携帯電話の電波が観測されてしまうのはEMCサイトでの測定においてもありがちな現象なので本当にEUTから放射されているのか切り分けることが大切です。

1m法での限度値

限度値はVCCIを想定してグラフに書き入れています。10m法の限度値を3m法の限度値に換算する際は単純に距離による損失を考えて10 [dB]を加算します。同様の考え方でいくと3m法から1m法への換算時はさらに10 [dB]の加算となりそうですが、6 [dB]の加算とする方が現実とよく一致すると参考文献[1][2]で示されています。

その理由の一つは、10m法や3m法が大地からの反射も合成した最大の電界強度を測定するのに対して1m法では反射による影響を極力抑えているためです。

VCCIの場合だと次のようになります。

測定結果の妥当性

さて、電波暗室でなく会社の会議室で、しかも中華ログペリアンテナを使ったとてもラフな測定ですがはたしてその結果は参考にしてもよいのでしょうか。

知りたいのは、EMCサイトで測定した結果とどの程度一致するかですね。

EMCサイトでの測定

実際に同じEUTを本番試験環境と同等のEMCサイトで測定してみました。

製品開発においてもなかなか使うことのない10m暗室です。贅沢な使い方です。

ドライブレコーダーなので、測定中の暗室内部が撮影されていました。なかなか見ることのできない光景ではないでしょうか。

こちらは暗室に備え付けられたカメラからの映像です。

さらにクローズアップ

測定結果

このような結果が出ました。上のグラフが水平偏波、下のグラフが垂直偏波での結果です。

やはり、限度値オーバーです。グラフ中の限度値はクラスBですが、それより10 [dB]甘いクラスAもオーバーしています。中華ログペリアンテナでの測定と近い感触です。QPは一箇所しか見ていませんが、他の部分もQPとピークにほとんど差がないタイプのノイズと思われます。

結果の比較

EMCサイトでの測定結果と中華ログペリアンテナでの測定結果を重ね合わせてみます。

青がEMCサイト、オレンジが中華ログペリアンテナでの測定結果です。限度値を揃えてプロットしています。かなりよく一致していることがわかります。 正直、ここまで一致するとは考えてもいませんでした。

ここまでよく一致した理由として考えられるのはEUTが小さいこと、ハーネスをつないでいないことなどが考えられます。また、見ている周波数が300MHzから上と、1m先を遠方界とみなして問題のない周波数であることなども要因の一つでしょう。

300MHzから下の周波数についても同じ方法で測りたくなりますが、波長的にこの方法だと無理が出てくるため近傍界プローブや電流プローブ等を活用するのが良いと思います。

今回使用した中華ログペリアンテで測れるような高い周波数の放射ノイズは、基板のパターンから発せられる場合が多く、あと付けの対策が難しいことが多いです。限度値オーバーのレベルによっては大幅な改修が必要となることも考えられるため、早めに問題の芽を見つけることが大切です。そのためにもこの中華ログペリアンテナは非常に有用な道具の一つといえるのではないでしょうか。

おわりに

どの会社でも何かと苦労話がありがちなEMC試験ですが、事前試験のノウハウを確立することで不合格のリスクを圧倒的に下げることができます。

そのためには必ずしも高価な測定器を揃える必要はなく、今回紹介したようなアンテナを使うのも一つの手段といえるでしょう。

ログペリアンテナをCerevoストアで販売

今回測定に使ったログペリアンテナをCerevoオフィシャルストアにて販売することになりました!

こちらのアンテナを他のショップから購入した場合、なんのデータも付いてきませんが、今回アンテナファクタの表を添付して販売します。
※代表値であり、個別の校正データではありません

アンテナファクタ付き!ログペリオディックアンテナ
https://cerevo.shop-pro.jp/?pid=165526003

参考文献

[1] ヘンリー・オットー(出口博一, 田上雅照, 高橋丈博 訳), 詳解 EMC工学, 東京電機大学出版局, 2013
[2]Patrick G. Andre, Kenneth Wyatt, EMI Troubleshooting Cookbook for Product Designers, 2014
[3]一之瀬 優, 一陸技・無線工学B アンテナと電波伝搬完全マスター, 2014

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